6月になると、日本各地の庭先やスーパーマーケットに青い梅の実が並び始めます。日本語で「梅雨(つゆ / Tsuyu)」と書く雨季の名前は、この梅の実が熟す時期と重なることに由来するとされています。梅の実は食用として長い歴史を持ち、中国・韓国・日本では古くから梅を加工して食べる文化が共有されています。日本ではこの時期に梅の実を使った保存食や飲み物を仕込む作業を「梅仕事(うめしごと / Umeshigoto)」と呼び、多くの家庭が毎年の習慣として行っています。
🫙 梅仕事――6月の台所仕事
梅仕事の代表は「梅干し(うめぼし / Umeboshi)」です。塩漬けにした梅の実を天日で干して作る保存食で、強い酸味と塩味が特徴です。日本の弁当文化を象徴する食材でもあり、白いご飯の中央に赤い梅干しを1つ置いた弁当は「日の丸弁当」と呼ばれます。
もう一つの定番は「梅酒(うめしゅ / Umeshu)」です。青梅・氷砂糖・焼酎を広口瓶に入れて3か月以上漬け込みます。家庭ごとに砂糖の量や漬ける期間が異なり、「うちの梅酒」は日本の家庭の味の一つです。
このほか、梅シロップ(子どもや飲酒しない人向け)、梅ジャム、梅味噌なども作られます。
梅干しの起源は中国にあり、日本には奈良時代(8世紀)に伝わったとされています。当初は薬として使われ、戦国時代(16世紀)には兵糧として重宝されました。現在も「梅干しは体によい」という認識が日本では広く定着しています。
梅仕事のポイント
- 時期:6月上旬〜中旬に青梅が出回り、6月下旬には熟した黄色い梅(完熟梅)が店頭に並びます。青梅は梅酒やシロップ向き、完熟梅は梅干し向きです。
- 体験:観光農園での梅もぎ体験は和歌山県(日本最大の梅産地)や群馬県で可能です。収穫した梅をその場で持ち帰り、自分で梅酒や梅干しに加工できます。
- 購入:梅の実はスーパーマーケットやデパートの青果売り場で1kg単位で販売されます。梅酒用のガラス瓶や氷砂糖も同じ時期に特設コーナーに並ぶため、材料をまとめて揃えることができます。
- 日の丸弁当:白いご飯の中央に赤い梅干しを1つ置いた弁当は、日本の国旗に似た見た目から「日の丸弁当(ひのまるべんとう / Hinomaru Bento)」と呼ばれます。質素な食事の象徴として昭和の文学や映画にもたびたび登場します。
🐟 入梅いわし――梅雨に最も脂が乗る魚
梅雨の時期に水揚げされる真鰯(まいわし / Ma-iwashi)は「入梅いわし(にゅうばいいわし / Nyuubai Iwashi)」と呼ばれ、一年で最も脂肪分が多くなります。産卵前に栄養を蓄える時期と梅雨が重なるためです。
特に千葉県銚子市は日本有数の鰯の水揚げ港です。銚子では6月から7月にかけて、飲食店が入梅いわしの刺身・なめろう・つみれ汁・蒲焼きなどの特別メニューを提供します。
鰯は日本の食卓で最も身近な魚の一つですが、鮮度が落ちやすいため、産地で食べる刺身の味は都市部のものとは明確に異なります。
梅の実が熟し、鰯が太る。6月の日本は雨が多く、旅行者にとって快適とは言いにくい季節です。しかしこの湿った空気の中で、日本の食文化は一年で最も活発に動いています。梅仕事の道具が並ぶスーパーマーケットの特設コーナーを眺めるだけでも、日本の季節感を実感できます。銚子や和歌山への日帰り旅行が可能であれば、入梅いわしの刺身と梅の産地を同じ旅程で体験することもできます。